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開催レポート

第1回富裕層観光戦略ウェビナー

第1回富裕層観光戦略ウェビナー
開催日2021年10月20日(水) こちらのイベントは終了しました
開催時刻14:00〜15:30
定員1000名
参加条件 無料・事前申込制
主催 一般社団法人ラグジュアリージャパン観光推進機構
後援 観光庁
日本政府観光局(JNTO)
一般社団法人 東京ニュービジネス協議会
協賛 株式会社クレディセゾン

コロナ後の観光戦略を考える上で、なぜ富裕層観光が重要なのかー。

今回は、政府の成長戦略会議のメンバーであり、「新・観光立国論」の著者であるデービッド・アトキンソン氏を招き、富裕層観光に取り組む重要性をお話いただきます。

アトキンソン氏は、昭和型のマスツーリズム志向を脱却し、「高付加価値」な観光サービスの提供に舵を切るべきとコロナ前から提言してこられました。しかし、そもそも、なぜ、「高付加価値」な観光サービス、更には富裕層観光に、国をあげて取り組むべきなのでしょうか。

富裕層観光に取り組むべき理由を教えていただいた上で、官・民それぞれが、中・長期でなにをすべきか、考えていきます。

対象の方

  • 観光戦略を担う自治体・DMO関係者の皆さま

  • 「高付加価値」な観光サービスの提供事業者さま

  • 富裕層の観光需要を獲得したいとお考えの事業者さま

  • そのほか、ご関心のある方
    (意欲のある学生の方の参加も歓迎します)

プログラム

開会挨拶   理事 島田 晴雄

案  内  ラグジュアリージャパン観光推進機構 サービスのご案内

講  演  「富裕層観光に注力すべき理由 」
株式会社小西美術工藝社
      代表取締役社長 デービッド・アトキンソン 氏

質疑応答

閉会挨拶  代表理事 宮山 直之

 

登壇者プロフィール

デービッド・アトキンソン 氏

株式会社小西美術工藝社代表取締役社長。奈良県立大学客員教授。

元ゴールドマン・サックス証券金融調査室長。

オックスフォード大学(日本学専攻)卒業後、大手コンサルタント会社や証券会社を経て、1992年ゴールドマン・サックス証券会社入社。大手銀行の不良債権問題をいち早く指摘し、再編の契機となった。同社取締役を経てパートナー(共同出資者)となるが、2007年退社。

2009年に創立300年余りの国宝・重要文化財の補修を手掛ける小西美術工藝社入社、取締役に就任。2011年代表取締役会長兼社長、2014年に代表取締役社長に就任し現在に至る。

1999年に裏千家に入門し、2006年に茶名「宗真(そうしん)」を拝受。

2016年財界「経営者賞」、2017年「日英協会賞」受賞、2018年総務省「平成29年度ふるさとづくり大賞個人表彰」、2018年日本ファッション協会「日本文化貢献賞」受賞。

著書は『新・観光立国論』(山本七平賞、不動産協会賞、東洋経済新報社)、『新・所得倍増論』(東洋経済新報社)、『日本再生は、生産性向上しかない!』(飛鳥新社)、『世界一訪れたい日本のつくりかた』、『新・生産性立国論』、『日本人の勝算』、『日本企業の勝算』(以上、東洋経済新報社)、『国運の分岐点』(講談社)など多数。

・内閣官房成長戦略会議有識者

・観光戦略実行推進タスクフォース有識者

・行政改革推進会議歳出改革ワーキンググループ構成員

・農泊食文化海外発信地域有識者会議委員

・国立公園満喫プロジェクト有識者会議検討委員

・分かりやすい多言語解説整備促進委員会委員

・日本遺産審査委員他

 

一般社団法人ラグジュアリージャパン観光推進機構について

一般社団法人ラグジュアリージャパン観光推進機構は、ラグジュアリーツーリズムの振興を目的とした団体です。

国内・海外のバイヤー、セラー、自治体、DMOを対象とした、富裕層マーケット専門のプラットフォーム「Luxury Japan Virtual Travel Market(略称:LJTM)」を2021年10月下旬にリリースする予定です。

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開催レポート

一般社団法人ラグジュアリージャパン観光推進機構は、10月20日(水)、小西美術工藝社 代表取締役社長、デービッド・アトキンソン氏を講師に迎え、記念すべき第1回目となる「富裕層観光戦略ウェビナー」を開催しました。

 

デービッド・アトキンソン氏は、オックスフォード大学(日本学専攻)を卒業後、大手コンサルタント会社やゴールドマン・サックス証券会社を経て、2009年に小西美術工藝社に入社し、現在は代表取締役社長として活躍されていて、これまで内閣官房成長戦略会議や観光戦略実行推進タスクフォース等のメンバーを務めていたこともある、観光分野のオピニオンリーダーともいうべき方です。

 

初めに、主催者代表として島田晴雄理事による挨拶が行われ、ラグジュアリージャパン観光推進機構の取り組みである、先日ローンチされたばかりの富裕層マーケット専門プラットフォーム「Luxury Japan Virtual Travel Market」の紹介VTRが流れたあとは、いよいよアトキンソン氏による講演です。

 

「富裕層観光に取り組むべき理由」と題された本講演は、なぜ今国をあげて富裕層観光に取り組むべきなのか、また、官・民それぞれが中・長期で何をすべきかを考えるきっかけとなる重要な講演となりました。

 

 

なぜ「観光戦略」が重要なのか


まず最初に、「観光戦略がなぜ重要なのか」について改めて話すアトキンソン氏。日本では、今後40年で現役世代と言われる生産年齢人口である15歳以上65歳未満の人たちが3000万人近く減ることに言及し、「これまで日本の観光産業はおもに生産年齢人口を対象として成り立ってきた歴史がありますが、人口減少により国内観光客数はどんどん縮小していきますので、産業の行く末の選択肢は2つしかありません。次々と廃業して規模が縮小していくか、日本人の代わりに外国人観光客に来てもらって日本の観光施設等を継続的に活用していくかです」と話します。

 

さらに、「日本は非常に多様性に富んだ文化、歴史、気候、自然などに恵まれ、さまざまな観光資源がたくさんあります。“食”の面においても、多様な食事を味わうことができ、日本食のみならず世界中の料理をおいしく食べられるという非常に珍しい国でもあります。それらを生かした観光戦略によって外国人観光客の誘致拡大を図るべきです」と話すアトキンソン氏は、“国内外からの外国人観光客の誘致によって日本の観光産業を支えることができる”という考え方が自身の出発点になっていることを明かします。

 

とはいえ、「日本人客・外国人客といった分け方をせず、誰であっても面白いもの、面白いサービスであれば、それを消費したい人は非常に多いはず」とも話すアトキンソン氏は、観光戦略のステップアップの一例としてバリ島を例に挙げ、「アマンリゾートがバリ島に着目し、“開発されていない、非常に美しい独自の文化を持つ島”としてホテルを作る前のバリ島は、バックパッカー的な人たちの旅行先でしかありませんでした。しかしアマンリゾートが富裕層向けのホテルを建ててからは人気が高まり、次々と高級ホテルが開発され、いまではなんとたったひとつの島に42軒もの5つ星ホテルが存在しています」と、バリ島の驚きの変貌ぶりを紹介します。

 

「アメリカには700軒以上、欧州の国々では200~300軒程度の5つ星ホテルがあるのに比べ、日本は手元にある直近のデータではわずか32軒しかありません」と話すアトキンソン氏は、「ですから、日本の観光戦略もまずは下の方から基礎固めをして、それからだんだんに上に向かっていこうという考え方でした。最初から富裕層への対応に言及していなかったのは、私の認識では日本国内には富裕層ビジネスを展開していくための基礎的なインフラができておらず、時期尚早だと考えたからです」と説明。そのため、これまでは現場に近いところでのさまざまな問題解決に取り組んできたといいます。

 

 

インバウンドが再開されるのは富裕層から


そういった問題を一つひとつ解決し、ようやく富裕層観光に取り組むべき時期にきたと話すアトキンソン氏は、コロナ禍後のインバウンドの見通しについて「世界観光機関(UNWTO)の予測によると、約3年で観光収入は元に戻り、コロナ以前を数%上回る推計です。ただし、人数はその時点では以前の8割強ぐらいしか戻らないとみています。人数は元通りには回復しませんが、平均単価が上昇することによって観光収入としては増加する予想となっています」と話します。

 

その背景にはクルーズ会社や格安航空会社の倒産・廃業によって輸送力の供給が制限され、元の人数を運ぶことができないといった物理的な問題があると言い、「その場合、マーケットの下の方は元に戻りにくいものの、上の方になればなるほど回復が早いので、富裕層を中心にアッパー、ミドル層からインバウンドが再開されることが予想されています。今後の観光戦略について簡単に言えば、マスの時代は完全になくなり、ミドルからアッパー、ラグジュアリー層に向けての取り組みが非常に重要視されることになると思います。そして、しばらくその傾向が続くとなると、なおさら富裕層の観光戦略は非常に大事なものとなります」と話した上で、「コロナの影響からまだ完全に回復したわけではない今、観光客がいない中で開発ができることは非常にチャンスと捉えるべきじゃないかと思います」と、ピンチをチャンスに変える好機が来ていると訴えかけます。

 

実際にどうやって富裕層の観光戦略を実行していけばいいのかについて、アトキンソン氏はホテルをひとつの例として挙げ、「日本国内にはまだ秀逸な富裕層向けのホテルは存在していないと私は思う」と話します。富裕層向けのホテルは上位になればなるほど客室数が少なくなるのが世界の常識であるのに対し、日本の不動産デベロッパーは200室以上のホテルを作ろうとすることに言及し、「本物の富裕層は200室もあるようなホテルには泊まりません。そういった矛盾が存在します」と指摘。

 

また、「3つ星ホテルと5つ星ホテルの最大の違いは設備ではなく“人”」だと話すアトキンソン氏は、「そこで働いている人々のレベルの高さ、お客さまへの対応能力や提案能力が十分にあるかどうかが基準になります。富裕層の方から高い金額をいただくためには、それを正当化できるだけの対応が求められます。例えば、ルームサービスではメニューに載っていないものでも、何時でも可能な限り対応するといったようなことです。お客さまの要望に対して最善を尽くし、それについての対価をきちんといただくというのが本物の富裕層への対応です。もちろん、それらの実現にはそれなりの人材やコストが必要になりますが、そこにいちばんお金をかけるべきです」と主張しました。

 

 

富裕層ビジネスの鍵はすべてにおいて「人」


これまで、地方に富裕層を誘致し、その土地の文化や食事、素晴らしい自然などを存分に味わって、できるだけ長く滞在してもらい、その対価を活用することによって、それらの財産を保存・継承していける仕組みを考えていたというアトキンソン氏は、それら地方への旅行ニーズは日本人にもあるはずだといいます。

 

「なぜこれまで現役世代の半数に相当するリタイア層に行ってもらえるような観光地や観光施設、観光戦略を作ってこなかったのかは最大の謎であり最大の失敗だと思う」と話すアトキンソン氏は、「そういった方々を動かすためにはより高度なサービスが必要となります。しかし、国内に富裕層向けのホテルを作れば作るほど、『ハワイに行くまでもなく日本で同じようなことができる』ということになりますし、ニーズは非常に多くあるはず」といい、「国籍を問わず、より長く国内の観光地を楽しんでもらえる魅力的な施設やサービスを作り、それなりの単価をいただいて地元に還元し、レベルと持続性の高いサービスを提供することで、国内の観光はさらにレベルアップして発展していけると私は確信しています」と訴えかけました。

 

世界においては、インバウンドの人数のたった1%である富裕層観光客が、その国の観光収入全体の2~3割を占めることも多々あることを明かし、「そういった意味で、日本の観光戦略はやっといちばん頂点の、ある意味でいちばんおいしいところを開拓してビジネスを展開するところまで来ました」と話すアトキンソン氏。さらに、「富裕層ビジネスの鍵はすべてにおいて人対人。実際にサービスを提供する人のレベルをどこまで高め、どこまで丁寧に対応できるかが最も求められることを理解したうえで、富裕層ビジネスに挑戦して、さらに素晴らしい日本の観光戦略を共に作っていけたらと思います」と参加者に呼びかけ、本講演を締めくくりました。

 

最後に宮山直之代表理事が、これからの観光業は量から質への転換が必要であると話した上で「日本の宝と言える観光資源を、LJTMという新たな試みとプラットフォームで世界に発信することで、日本の観光の発展に貢献したいと思っております」と宣言し、ウェビナーは終了。

 

富裕層観光に取り組むべき理由について、具体的でわかりやすい講演が行われた、実りのあるウェビナーとなりました。